命は困り果てていた時、夢枕に温羅の霊が現れて、
『吾が妻、阿曽郷の祝の娘阿曽媛をしてミコトの竈殿の御饌を炊がめよ。もし世の中に事あれば竃の前に参り給はば幸有れば裕に鳴り禍有れば荒らかに鳴ろう。ミコトは世を捨てて後は霊神と現れ給え。われは一の使者となって四民に賞罰を加えん』
とお告げになりました。命はそのお告げの通りにすると、唸り声も治まり平和が訪れました。これが鳴釜神事の起源であり、現在も随時ご奉仕しております。
御竈殿にてこの神事に仕えているお婆さんを阿曽女(あぞめ)といい、温羅が寵愛した女性と云われています。“鬼の城”の麓に阿曽の郷があり、代々この阿曽の郷の娘がご奉仕しております。またこの阿曽の郷は昔より鋳物の盛んな村であり、御竈殿に据えてある大きな釜が壊れたり古くなると交換しますが、それに奉仕するのはこの阿曽の郷の鋳物師の役目であり特権でもありました。
この神事は神官と阿曽女と二人にて奉仕しています。阿曽女が釜に水をはり湯を沸かし釜の上にはセイロがのせてあり、常にそのセイロからは湯気があがっています。神事の奉仕になると祈願した神札を竈の前に祀り、阿曽女は神官と竈を挟んで向かい合って座り、神官が祝詞を奏上するころ、セイロの中で器にいれた玄米を振ります。そうすると鬼の唸るような音が鳴り響き、祝詞奏上し終わるころには音が止みます。この釜からでる音の大小長短により吉凶禍福を判断しますが、そのお答えについては奉仕した神官も阿曽女も何も言いません。ご自分の心でその音を感じ判断していただきます。